あずまんが大王 5年後ストーリー

1)お迎えの日

その日成田の空はどんよりと曇っていた。
よみは展望ロビーの手すりに寄りかかってぼんやりと離発着を繰り返す飛行機を見ていた。
「あれから3年か…」

留学以来はじめてちよちゃんが帰ってくるというのに
よみの心の中は今日の天気のようになんとなく晴れなかった。

なんとなく複雑な気分なのである。
「そういや『私よみさんといっしょの大学に行きたいです』とか言って
無理やり私を東大に引っ張り込んだくせに…」
いつしか独り言をつぶやくよみであった。

こう書くとまるでよみが現役合格したように見えるが、そうではない。
確かにちよちゃんのすがるような目つきに発奮して
現役で東大に受かるほどの実力はついていたのだが、
受験の前日、緊張のあまり眠れなくて当日体調を崩し、不戦敗になってしまったのだ。
なんとも本番に弱いタイプである。
でもよみの場合自分でそれを分かっているがゆえに、いつも事前に念入りな下調べを行い、
なんかへまをしないように、準備万端整える癖がつき、頭の中でいろいろシミュレーションをしていた。
それが勉強にも応用されて、そこそこの成績を収めていたのだから、
(自覚さえしていれば)大きな欠点ではない。 むしろ逆に利用して
長所としているくらいだろう。

それに引き換えともは本番に強いという強運を生かして、なんと一発合格してしまったのだ。
勿論東大と比べるとランクが3つは落ちるところではあったが。

「それだって直前に私が教えた日本史のトピックが偶然当たっただけじゃないかよ。」
映画陰陽師の話をしてるときにバカなとものために時代背景を説明してやったのだ。
話をしていてあまりにともがアホなんで「平安」→「鎌倉室町」と、 権力の流れ、文化の推移なんかを知ってる限りぶちまけた。
そしたらなんと3日後の ○○女子大の試験がぴったりそこだったのだ。なんという強運の持ち主であろうか。
ある意味ともに運を吸い取られたともいえる。

しかし、安倍晴明にはまったからといって普通そこまで勉強するだろうか。
しかもよみは理系なのである。つまり日本史のその知識は受験には全く不必要な知識だったのだ。
あげく大学生になったともからは、折につれ「でも私は大学生だもんねー」とつっこまれ
屈辱の一年間を過ごす羽目になったのだ。
その屈辱のおかげで猛勉強を重ねたよみはおそらく去年のちよちゃん以上の成績で東大合格を果たしたのだ。

ちなみに意気揚揚と「でも私は東大生だもんねー」と自慢したが、東大に重きを置いてない(価値のわかっていない)ともに
全然通用しなかったのはいうまでもない。

それはさておき、いざ入学してみたら ちよちゃんは(当然)一年先輩である。
いままで同級生で、保護者もしくは姉のような気分でいたよみは ちよちゃんに
「あ、知らないでしょうから案内してあげますよ。」 「何でも聞いてください」 「過去問見ますか?」
等と先輩風を吹かされ、(推定35m/s)
さらには 当然のごとく人気者になっていたちよちゃんには別の保護者や取り巻きが出来ていて、自分の知らない
コミュニティが出来上がっていたのである。
まあ榊は仕方ないにしても、自分が一番のちよちゃんの保護者だとどこか思っていたよみは
結構ショックを受けた。「クウォークが私以外の人に愛されるなんて」とつぶやいた母親の心境である。
結局すでに出来上がっているそのコミュニティに上手く溶け込むことは出来ず、
ちよちゃんと時間割も合わないので、どこかちよちゃんと距離の離れた付き合いになりがちだった。

まあそうでなくても大変な大学である。最低単位とぎりぎりの成績で卒業だけをめざす(とものような)お気楽な性格ならまだしも、
どちらかというと真面目でいまいち羽目を外しきれないよみは人間関係の交流よりはお勉強のほうに傾倒していったのである。

そんなこんなで1年が過ぎた。よみはそつなく単位を取っていってるにもかかわらず、しかしずば抜けた成績というわけでもなかった。
まあそうでなくても(一応)日本の最高学府である。そこに集まってくる人間はことお勉強に関しては世間の平均値よりは高いのである。
お勉強ではなく別の方面に自分の価値を見出すべきであったが、まあ(当時)19歳の人間にそこまで求めてもしょうがないだろう。

さらにはちよちゃんは3年次にはすでに卒業単位を取得し終わり、大学院へ飛び級したのだった。
しかもMITに。(どこかで聞き及んだ某10歳の教師に影響されたかどうかは知らない)

残されたよみはなぜかぽっかりと心に穴があいた気持ちだった。
距離は離れていたとはいえいっしょの大学にいて週に2,3回は顔をあわせ楽しく会話も出来ていた。
それはそれで楽しい時間であったし、どこかよみの心の支えにもなっていたところがある。
ところがわざわざこんな大変な大学に引っ張り込んだ張本人は自分の夢を追って高飛びしてしまったのである。

向こうの大学の休みとなれば戻ってくるかと思ったら、やれヨーロッパの友達のところへ遊びに行くとか
ケンブリッジの夏期講習に行くとか、修士論文をまとめるので時間が無いとか、見事に日本には帰ってこなかった。
ちよちゃんの場合逆に両親のほうが(留学先ではない)ヨーロッパとかに娘に会いにわざわざ行っていたくらいである。

だから国際電話でちよちゃんから「迎えに来てくださいよ」と電話があったときは正直嬉しかった。
やっぱり日本に戻ってきたら私を頼ってくれるんだと。
うきうき気分で迎えに来たが飛行機の到着が2時間遅れてるという。
暇つぶしに展望ロビーでボーっとしているうちに 現在の自分と、世界を飛び回っているちよちゃんを
対比させたりして考え込んでいるうちになんとなくブルーになってきてしまったよみであった。

「North West 143便 2時間遅れで14:30到着です」
ちょうど灰色に赤のラインのNW機がタッチダウンをしたときにアナウンスが流れてきた。
あれがちよちゃんの乗ってる飛行機だ。
よみは暗い考えを振り払うかのように軽く頭を振って、到着ロビーへと向かった。
やっぱり懐かしい友人に会うことを考えるとどこか心が弾んでくることは間違いない。
今はそっちの感情に心をまかせることにした。
 



不定期長期 連載中篇です。
次がいつかは分かりません。 期待しないで待っていてください。

自分で突っ込み
0)未来のそれぞれの進路は全く勝手な設定です。 (そもそもちよちゃん直接留学行ってしまいそうだし)
1)成田に展望ロビーがあるかどうか知りません。ああいったアナウンスが流れるとはちと思えません。
2)もちろん東大なんていったこと無いので、実際の学内の雰囲気は知りません。どのくらい大変かも想像つきません。
3)よみが理系かどうかも不明です。
4)留学の場合ビザやパスポートの関係で定期的に日本に帰ってこないといけない場合があるかもしれません。
5)それぞれ大学生ということで彼氏作ったりいろんなことしちゃってたりするでしょうが、ここでは触れません。(書く才能ないし)

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